コロナ禍の規制ばかりでどうしても家で映画を観る機会が増えました。それもこれまでは一人で韓流ドラマを観るのが楽しみだったのだけど、最近では家族揃ってリビングで観る機会がめっきり増えました。そこで、リビングで家族で観るのにちょうど良い長さであるであろう30分のショートムービーをオススメしたいと思います。
「隔たる世界の2人」 原題「Two Distant Strangers」*2
主人公はNYの売れっ子のグラフィックデザイナーで、ファッションもイケているオシャレな青年、履いているパンツはカルバン・クラインだったりします。ジーンという超かわいい従順な犬を溺愛していて、ドッグカメラの遠隔操作でエサを与えたり話しかけたり、ジーンが待っている彼のお部屋も素敵だった。街ですれ違う人たちにも丁寧に接するような好青年なんだけれど、黒人だというだけで白人警官から不当に扱われてしまうわけです。
SFというフィクションを設定ながら、映画の中で起こっている出来事が実際のあの事件を元にしていることがわかり、これは一切フィクションではないという恐怖を描いた政治的な作品ですが、映像の中にいろんな伏線があるようで、何度か見返して学んでみるのも良いかもしれない。
アカデミー賞授賞式のスピーチで監督2人が語っていた「人間ができる最も卑劣なこととは、他人の痛みに無関心であること」という言葉が、本作に長く横たわる痛みを通して重く深く心に残ります。人種差別を糾弾するようなテーマの作品を作り、黒人俳優が活躍する映画を作り、それらを映画を愛する国民の多くが支持するにも関わらず、現実が好転しない。
重く深いこの無力感を描くのにループという構造はぴったりで、これまでループものであれば、誰もがそこから抜け出す方法を考えてチャレンジするという展開になると思うけど、30分という短い時間の中でBLM運動について考えさせ、理想と現実の間には途方もない距離感があることを描いたうえで、強くて開けたエンディングで結ぶのが素晴らしかった。たった30分でここまでできたアイディアとセンスが凄いし素晴らしいと思った。
ああ、なんとしても愛犬ジーター と再会してほしい。